黒木 龍三(RSSC専攻科ゼミ担当教授)
自分がゼミを担当して、あっという間に10年が経ってしまいました。初めは本科を担当していましたが、最近は専攻科に移っています。初めてゼミを受け持って以来、春はいつも、担当した諸君と別れなければならず皆さんとの出会いがとても名残惜しく、同時に新たにどんなゼミ生たちが集ってくるのかとても楽しみな季節です。
提出された修論はそれぞれとても興味深かったですが、中でも思い出に残っているのは、例えば、樋口一葉の恋、とか、入会の研究、とか、私の大好きな和菓子の研究、などです。私の専門は経済学なので、正直いえばそれ以外の学問範疇は門外漢で内容に踏み込んだコメントはできません。その代わり、論文の基本的な書き方、つまり起承転結の章立て、や、てにをは、の日本語の使い方、という指導はさせてもらっています。
専門の経済学では、最近は、歴史的なアプローチに力を傾注しています。特に、私が現代の世界の基礎と考えている、近代の資本主義に対してです。18世紀から19世紀の経済理論の形成過程は、研究すればするほどエキサイティングです。18世紀の初めに登場したジョン・ローは、私生活では破天荒な人生を送ります。決闘による死刑囚から、脱獄してフランスの大蔵大臣に、失脚して最後はベネチアの賭博場で亡くなる、といった具合。その、貨幣は紙で十分だ、とする理論は、今日でも賛否両論です。同じ18世紀でも後期のフランスで注目されるのは、チュルゴです。彼の資本理論や土地理論は、まさに現代の経済理論の基礎になり得る理論です。しかしチュルゴと同時代にアダム・スミスが登場すると、経済学の中心がフランスからイギリスにほぼ完全に移ってしまったのは少し残念ではあります。私の感じる、残念という理由は、イギリスの科学は基本、経験論に基づいていて、理論がまどろっこしい。その点、フランス人は、例えば数学者が多く出るように、話の運びが極めて論理的で、ケネーやチュルゴのような優れた研究者の考えは、今日でも理論化しやすい。それが、フランスの経済学が今日の理論に直結する理由です。現代理論の基礎を作ったのも、19世紀後半から20世紀初頭に活躍したレオン・ワルラスです。マルクスも、フランスの経済学や社会思想に大きな影響を受けました。ところが現代では、フランス語は国際共通言語ではなくなり、フランス人が論文を提出する場合でも英語で書くのが通例になっています。こうして現代では、経済学の中心は、アメリカの大学に移ってしまいました。しかし私はヨーロッパの歴史が好きなので、ヨーロッパの国際学会に出席するようにしています。
OB、OGの皆様におかれましては、今後の益々のご健勝を祈念しております。
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