「お陰様で無理をしなければ年金で暮らせそうだけど、これと言った趣味はないし、知人と会うのも気疲れする。ポランティア活動などは人間関係が難しそうで遠慮したい。家族のことを考えると旅行は控えよう…。でも、手ごたえのある毎日を過ごしたい」。そんなことから週2-3日の学校通い(RSSC→M大など)を始めて10年以上が過ぎました。この流れで一昨年から始めたのが、“藝大に通う”です。
“藝大に通う”と言っても聴講生や派遣スタッフになる訳ではなく、ただ月に2-3回、東京藝術大学の演奏会に行くだけのことです。東京藝大―どの音楽大学や音楽団体でも同じだと思いますが―では我々が聴くことができる沢山のコンサートやイベントが開かれています。昼の公演が多く、私の生活リズム―夜遅くなるのが辛くなってきました―にも合っています。加えて若いアーティストに拍手が送り、将来の成功を祈るのは嬉しいことです。
今年のある演奏会で先生のお一人が「今日は満席になりました。お客様が多いと演奏者のテンションが上がります。満席が学生たちを育てます。これからも満席にしてください!」と挨拶されたのが心に残りました。どのような演奏会があるのかは、こことここを見てください。今年度、学校通いを週2日に減らしたので、その分、藝大のモーニングコンサート、定期公演、オペラハイライト、夏の第九、アカンサス音楽祭、藝祭コンサート、藝大オペラなどへ小まめに足を運んでいます。また月1回、旧東京音楽学校奏楽堂で行われる「藝大生による木曜コンサート」もほぼ毎回参加しています。
演奏会はクラッシック音楽だけには留りません。邦楽・謡曲・民族音楽・古楽・jazz・現代音楽や作曲専攻の学生さんの新作発表もあり、新しい気づきを私に与えてくれます(“異聴体験”といった方が正確かもしれません)。行き帰りに藝大美術館や国立西洋美術館・東京都美術館に立ち寄ったり、東京文化会館でさまざまな公演パンフレットを集めて「行きたい」と思うイベントを自宅でゆっくり探すのも楽しみのひとつです―芸術イベントが多様な都内はとても恵まれています。これを活かさなくては勿体ないと思っています―。
この夏に読んだハンナ・アーレント(思想家/左写真)に「芸術作品は人間のためではなく、死すべきものの寿命や世代の流転を超えて存続すべき世界のために制作される」とありました(『過去と未来の間』p282)。また、芸術は死すべきものの時間を超えた永続性、さらには究極の不死性を持とうとすると繰り返し述べています。
世界のために芸術が永続性を求め不死性を持とうとするからこそ、“死すべきもの”である人間は永続する芸術の創造に努め不死の存在に寄り添い、喜びやチカラを得て有限の時間を生きるのだと思います。暫くのあいだ、上野エリアに通い続けたいと考えています。(7期生 杉村)
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