伝記に学ぶ

大野久(RSSC本科ゼミ担当教授)

 昨年、福村出版から「アイデンティティ研究のための伝記分析――生涯発達の質的心理学」を出版しました。これは、アイデンティティ研究の創始者であるE.H.エリクソンの方法をモデルに私の学部時代の指導教員である西平直喜先生が1970年代から始めた研究を私が立教大学に着任してから引き継ぎ、大学院のゼミと研究会で院生たちとともに25年間続けた研究をまとめたものです。伝記分析とは、歴史上の人物の伝記資料に基づいて人格の生涯発達を研究する方法です。これまで100人以上の人物の生涯を分析してきました。この研究の中心となる概念にアイデンティティがあります。アイデンティティとは、人生で果たす役割についての「自覚、自信、自尊心、責任感、使命感、生きがい感」の総称です。人はその人の持つアイデンティティによって行動や生き方が大きく影響を受けます。したがってその人物がどのようなアイデンティティを持って生きてきたかを理解することが、その人の人生を理解することになります。この研究をとおして、人間の人生は非常に多様なものであり、アイデンティティの持ちかたも人によってさまざまであることが実感できます。苦難を乗り越えて生き抜いた人、人生の荒波に抗しきれず失意のままにこの世を去った人など様々です。今年は、秋学期に「生きがいの生涯発達心理学」の講義を担当しますので、そこで伝記分析から得られた知見を紹介したいと思います。同窓生の皆様もご興味のある方は、来年度以降、科目等履修生制度を使って受講していただけると幸いです。


この記事の投稿者

編集チーム 十六期生