善光寺に隣接した長野県立美術館の別館に東山魁夷館があります。なぜ長野に創られたのか、東山ブルーといわれる世界観に浸りながら、ちょっと学んでみたいと思う気持ちで今回の旅は始まりました。

今から2ヶ月ほど前、秋深く未だ山紅葉も残っている頃。友と二人、長野駅に下り立つと、気温は東京より3度ほども低いように感じられました。

善光寺参りをすませ、少し悴む手で美術館に向かいました。2021年4月、「自然と一体となる美術館」のコンセプトのもとリニューアルされた建物は、白く凛とした佇まいで私達を迎えてくれました。この時期、本館では、東山魁夷「唐招提寺御影堂障壁画展」が開催されており、同時に長野県立美術館所蔵「白い馬の見える風景」全作品が特別公開されていました。

東山は、「私の描くのは人間の心の象徴としての風景であり、風景自体が人間の心を語っている。ただ一度、珍しく私の風景の中に点景が現れたことがある。それは人間ではなく、白い馬が風景の中に見える連作である。白い馬は、心の祈りである。」と語っています。※左画像出所:https://www.shogeikan.co.jp/shop/ products/detail.php?product_id=9531

そして東山は、自身の人間形成において重要な二つの要素になった風景についても記しています。一つは、病弱だった少年時代を過ごした神戸須磨の海や淡路瀬戸内海の穏やかな山と海の夏の日の風景。そしてもう一つは、木曽路から御岳への山国、厳しい気候風土に耐える力強い風景との出会いであったといいます。

風景画家としての道を歩むことに大きな影響を与えた信濃路への感謝として晩年長野県に寄贈された作品は、970点に上ります。これを受けて東山魁夷館は、1990年開設されたという事です。「唐招提寺御影堂障壁画展」では、障壁画全68面が一堂に展示されていました。1971年から10年もの歳月をかけて制作された作品には、唐招提寺を開いた鑑真和上への崇敬の念も込められ、深く圧倒的な東山ブルーの世界が広がっていました。

左《唐招提寺御影堂障壁画 濤声》(部分) 1975年 唐招提寺蔵
  画像出所:https://bijutsutecho.com/exhibitions/6506
右《唐招提寺御影堂障壁画 山雲》(部分) 1975年 唐招提寺蔵
  画像出所:https://bijutsutecho.com/exhibitions/6506

展示室の中は、人がまばらで遮るものもなく、「濤声」と名付けられた日本の海の風景に吸い寄せられる自分がいました。海の深いブルー、群青と緑青の色調の濃淡に包まれ、暫し内省の時が流れました。「山雲」の障壁画では、青と灰色の織りなす世界に引き込まれ、湧き上がる郷愁の念に、幼子になったような思いにもかられました。懐かしさが心を揺さぶり、その場所を去りがたい感動を覚えました。
「風景は心の祈りである」
画家の思いに心を寄せることで見えてくる光景もあるのでしょうか。
長野への旅は郷愁と共に明日への光と感謝の気持ちを与えてくれたように思えます。

そして新年を迎え、安心して旅ができますよう、青い色に願いを込める今日この頃です。(7期 吉岡)

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