私は大の歌謡曲ファンである。従ってカラオケなどに行くと無性に昭和歌謡を歌いたくなり、職場の若手などと一緒に行っては一人浮き上がっていたものである。こんな私の歌謡曲にまつわる思い出話を一つお話ししよう。

歌謡曲がまだ流行歌と言われていた時代の話である。昭和38年、私は小学校6年になっていた。私が通っていたのは児童数が1学年60人に満たない、当時としては小さな小学校だった。そんな小学校が市の小学生合唱コンクールに出場することになった。さて、それは大変な事件であった。もっと大人数の学校であれば、多分各クラスから歌のうまそうな子を選抜するとか、音楽クラブとかが出場したのであろうが、私の小学校では歌がうまかろうが音痴だろうが、声が良かろうが悪かろうが、とにかく全員がにわか合唱隊員となったのである。

さて、合唱コンクール出場のための練習が始まると、基礎からやるので規則づくめの歌い方になり、どうしても緊張してしまう。しかし、遊びたい盛りの小学生である。緊張感も長続きせず、なかなか綺麗な合唱にならない。そんなことを繰り返しながら練習していたある日、先生がやおらみんなで舟木一夫の「高校三年生」を歌おうかと言い出した。「高校三年生」はこの年6月にリリースされて大ヒット中の曲だった。先生は学校で流行歌を歌うのはあまりいいことではないのだけれど(そんな時代だった!)、みんなも疲れているだろうから、たまにはこの歌を自由に思いきり歌おうかと言った。もちろんみんな大喜びである。そして先生が音頭を取り、みんなで「♪あかーい ゆうひが こうしゃをそめーて♪」と歌った。何だかとてもうれしくなって大声で歌ったのを覚えている。先生は練習で疲れた私たちに歌を歌うことの楽しさを忘れさせないために「高校三年生」を歌おうといったのだろうか。とにかく私たちはそれから一生懸命練習して合唱コンクールに出場し、大勢の前で歌った。残念ながら誇らしい結果は出せなかったが、田舎の子どもたちが町の子供に交じって頑張ったのだという達成感は得られたと思う。高齢者になった今でも、カラオケで「高校三年生」を歌うことがあるが、少年時代のそんなことを思いだすことがある。*写真(右上)出所:http://blog.livedoor.jp/yousayplanet/archives/4672251.html

当時、学校で先生がそっとみんなと歌わせてくれた「高校三年生」も2006年には文化庁によって日本の歌百選に選ばれている。この百選は日本PTA全国協議会と共同で選んでおり、中には歌謡曲も何曲か選ばれているから、歌謡曲も学校教育現場では名誉ある地位を確保できたということであろうか。

昨年、筒美京平氏、中村泰士氏、なかにし礼氏など歌謡曲の巨星が相次いで世を去った。このまま歌謡曲は忘れ去られてしまうのか。が、幸いなことに最近、昭和歌謡が見直されてきているらしい。
*写真(上)は筆者の好きな「ちあきなおみ」

私の青春を時に慰め、時に励ましてくれた歌謡曲。そして今は元気づけてくれる歌謡曲。

ああ歌謡曲よ、永遠なれ。 (7期生 高橋豊房)

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