ダビンチロボットを備えた手術室

この歳になって、同世代の集まりでは必ず病気自慢が始まる。やれ高血圧、糖尿、白内障などと。自分の場合は子供のころから体が弱く運動は苦手だったが、いま後期高齢者になってもエスカレーターの右側を上り下りするせっかちな行動を好んでやっている。そんな折の昨秋、地元の後期高齢者健康診断でX線検査を受け唐突にも胸(乳房ではない)に影があると精密検査に送られた。CTを2度も取って肺腺に5年くらいの経過で2センチ大に増殖した腫瘍が見つかり悪性の可能性もと診断が出た。どうやら子供の頃に罹患した結核に由来するものらしい。

その昔、小学校では毎年ツベルクリン反応の注射があり、いつも5センチ大の発赤が出た。田舎の保健所には直接撮影のX線設備がなく、電車に乗って遠くの市まで検査に行き、しばらく有名なストレプトマイシンの注射を受けたことはあった。しかし、その後は高校で山岳部に入り、30キロ近い荷物を背負って南アルプスを縦走するくらいのことをやっていた。社会人になっても人並みの体力は維持してきてつもりである。

何の自覚症状もないまま地域の中核病院から大学の医学部付属病院に移され、再びX線、採血、更にPET、MRIと続けざまに検査があった。結局、前縦隔腫瘍との病名で暮も押し詰まった12月20日にダビンチロボットという先進医療による約5時間の手術を受けることとなった。大勢の医師・看護師・男女の医学生に囲まれた手術室のことは、全身麻酔なのでまったく記憶にない。執刀医が3か所の胸腔から内視鏡でコンピュータのモニターを見ながら操作し、マジックハンドのごとく動くロボットが患部の切除を見事にやってのけたのだろう。流石に最初の一晩はきつかったが、経過は順調で翌日から歩行ができて昼から普通食が提供された。以前の開胸手術ではこう簡単にはいかないらしい。病理検査の結果待ちではあるが、どうやら悪性ではないとの所見が出ており、医師・看護師などによるフルケアの入院生活も術後6日目に退院となった。ともかくも正月を自宅で普通に迎えることができたのは幸いであった。

なにしろ日常生活に何ら不安もない中で後5年もすれば80歳を超え、それが悪性に変化したとしてももう良いではないかとの思いは自分にあったが、周囲も主治医も切って取った方が良いとの勧めである。更地で何もないところから無理矢理に掘り返すように摘出を受けた、というのは言い過ぎだろうか。この間、何回もの採血やX線撮影があって検査には些か疲れも来た。ダビンチロボットによる手術は前年から保険が適用になり、1週間の入院に自己負担1割で払った医療費はわずか7万円足らず。この9倍が公費で賄われていることになる。大病院に毎日押しかけている高齢者群を見ると国の社会保障費がうなぎ上りに増え続けている実態に妙な納得感がある。

こうして約3か月に及ぶ闘病(いや「体験」といってもよいかも)は一応の結末がついた。一部の友人には、しばらく病院に入ると告げて少しばかりの役目を委ねていたので、次に彼らに会った時には一部始終を報告しなければならない。病気自慢の輪に入る話題作りにはなったのだろう。

もっとも、主治医が別れ際にふとつぶやいた「PETで光った肛門と前立腺のことはまたあとで・・・と」トホホ。RSSC同窓生の皆さんも御身大切にくれぐれもご自愛ください。(7期生 清水 誠)

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