秋はサンマ(秋刀魚)がよく似合う。サンマの塩焼きは、日本の秋を彩る錦絵だ。標題の「さんま苦いか塩っぱいか」はご存知の方もいらっしゃると思うが、詩人佐藤春夫が書いた詩で、捨てられた人妻、妻にそむかれた男、愛薄き父を持ちし女の児などが登場するなんとも悲しい雰囲気の中でサンマを食す「秋刀魚の歌」の一節である。それはともかく、熱々で、ホクホクで、はらわたは脂がのってほろ苦く、皮は香ばしく焼きあがり、それにスダチがよく似合う。なんともよだれが出て来そう。

サンマは江戸中期ころまでは下魚(げざかな)の類とされ、食用ではなく長屋の明かり用の魚油(菜種油よりかなり劣悪)として使われていたらしい。食用として庶民の口に入るようになったのは江戸中期以降。落語にもあるよう、しだいに武士の中にも広まっていったようだ。

そんなサンマであるが、最近漁獲量が減り続き、今年(2019年)はかなりの不漁とのこと。考えられる原因は大きく3つ。①そもそもの資源量が長期的に減少、②海水温上昇により回遊地域が日本近海から北方遠洋に移動、③他国が排他経済水域外で大量捕獲。

それぞれの考察は後で述べるとして、サンマの旬は、晩夏、秋、晩秋、それぞれ特徴があるようだ。サンマは、水深10mほどの表層で、水温10~20℃の日本の沖合いから米国沖までの広範囲の北太平洋を回遊している。日本の南方で産卵され、冬場に生まれた稚魚が黒潮に乗って北上する。遠くベーリング海から来る親潮が栄養豊富な動物プランクトンを運んで来るが、春から初夏に掛けてサンマたちは、それらをパクパク食べ成長し、脂がのってくる。そしてオホーツク海から北太平洋に8月ころ近づき、国内水揚げ第一位の花咲港など北海道近海で第一の旬を迎える。その後、彼らは南下を続け、大船渡、気仙沼に代表される三陸沖で水揚げのピークを迎える。そして11月以降になり千葉沖まで南下してくると、脂肪分が数%まで落ちて、すしや干物に適した味になっていく。

さて、漁獲量の減少についてだが、まず、資源量の減少。これはあくまで推定量ではあるが、調査が始まった2003年は502万トンだったが、18年は205万トンまで減っており、今年(2019年)は推定142万トンと過去最低だった17年(86万トン)に次ぐ低い資源量。これだけ見ても漁獲量が減るわけだ。それに加え第二の原因は海水温の上昇。サンマが好む水温は15℃前後。しかし2013年ころからこの時期の水温が16~18℃と高くなっている。畢竟サンマの群れが北の冷水海域にとどまり、日本沿岸になかなか近づかない。

さらに輪を掛けてと言うか、台湾(00年頃から)、中国(13年頃から)など外国船が日本の排他的経済水域(EEZ)外の公海で、北海道近海に来る前のまだ小さいサンマの群れを、「冷凍」設備をもつ1000トンクラスの大型船でゾックリ漁ってしまう。日本の漁船は200トン未満の小型船で、近海で漁をし「氷蔵」して水揚げしていたが、そうでなくても資源量の減少や水温の影響で日本近海での漁が難しくなったため、燃料をたくさん使い、脂の乗りが悪いまだ小ぶりのサンマを、危険を冒して遠洋まで獲りに行かざるを得ない。
つまりいろいろな要因が折り重なり、いま日本のサンマ漁は厳しい局面にあるという。

さて、サンマは漢字では秋刀魚と書く。すし屋の湯呑には「鰤」、「鯵」など「魚へん」の文字が並んでいるが、さて、サンマは「魚へん」ではどう書くかご存知ですか。
この安くて旨く滋養に満ちたサンマ。だが、そのうち高級魚になって私達の口には届かなくなるのだろうか。
秋刀魚、苦いか塩っぱいか。
(7期生 佐野英二)

 

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