高額療養費制度の自己負担限度額の見直しが騒がれているなか、デンマークから友人が一時帰国した。高い税金を負担する代わりに、充実した社会保障を受けられる国で6年前にガンに罹患した当時の入院手術の体験を聞いた。友人は学生時代からデンマークで学び、自営業を立ちあげ50年以上住んでいる。
住民のID/保険証は過去データが即時にわかり、ガンの診断・治療(手術、放射線療法、化学療法)などの費用はほぼ無料で、まず居住地に近い「総合診療医」を「かかりつけ医」として登録し、体調の変化が起きたときに診察を受け必要に応じて専門医に紹介される。その「かかりつけ医」の事前予約をとるのが第一関門の高いハードルで、デンマークでは発熱や嘔吐、インフル位であれば「水分取れていればOK。薬局で解熱剤買って」と自宅療養が一般の国民意識である。湿布まで処方される日本の医療とは大きな違いがある。

・左写真:Rigs hospitalet=国立病院
・中写真:北棟の正面玄関エリア。ガラスを多用し自然光をふんだんに取り入れる建築は、
冬の日照時間が短い北欧には多い。左に見える渡り廊下で本館とつながる。
・右写真:新設棟の正面玄関近くの螺旋階段。
友人は自覚症状の発症で、第一次の「かかりつけ医」からは、自分の判断の範囲ではないと、二次の専門医の一覧をみせられ、住居に近い医師を選んだ。二次の医師からも更に検査が必要と、三次は指定された国立病院でガンと診断され、高度な医療スケジュールが決められていた。
手術前の検査はすべて通院で、手術の当日を含め4日ほどの入院で、執刀医が手を握りながら丁寧な説明と安心を与えてくれているうちに麻酔が効いて、次に目覚めると手術が終わっていた。初診から手術までベルトコンベアーに乗せられたような流れで、早期退院と在宅ケアへの移行を推進する政策により、放射線と抗がん剤の両方を毎日の治療として週5日、合計50日間通院した。医療従事者も看護師も個人のライフステージに合わせて雇用時間を自由に決めるので、治療の途中でも勤務時間により人がどんどん変わる。
通院時の治療は辛くとも、情報は細かく共有され、常に感じたのは弱い人を力づけるための患者のメンタルヘルスのケアで、最終日に感激したのは、治療のベッドにデンマークと日本の旗が飾られ「よく頑張った。もう二度と来ないこと。」と激励されたことである。ガンと診断されたショックや、手術後のうつ症状、生活の変化に適応するためのメンタルケアは臨床心理士が治療の一環として特別なサポートチームが組まれていた。
日本の場合は、健康診断で病気を発見できることも多いが、デンマークは「定期健康診断にはコストに見合う効果はない」と結論づけ毎年の健康診断という制度は国にはない。日本では入院手術となると広く情報を調べ、病院や医師を指定し、追加費用で個室を選択する場合も少なくない。
以前に尊厳死を題材にしたフランス映画を観た時に、カーテン区切りで老人男女が一緒の病室だったことに驚いた。友人は同性の二人部屋だったが、プライバシーよりも医療の効率を優先する文化があり、男女混合病室に抵抗は少ない。
病院の共用トイレは古く、病室のテレビがブラウン管、ドアが壊れていることもあるが、患者は本来治療のスキル以外は求めず、産業別組合は労働環境の向上意識が強く、十分な医療従事者への待遇が国民全員を幸せにしていると考え、国で賄う医療費にはできるだけお金はかけないこと、日頃から徒歩、自転車利用の推奨も医療費を削減することに国民全体が理解し協力している。
(←新設備のシャワー・トイレ付個室)
日本の高齢者は、病気や介護に備えて節約し貯蓄は崩せない。デンマークは病気になっても無料、年金制度も充実して老後の不安はなく、旅行も思う存分できる。日常の無駄な支出や目先の楽しみにお金を使ってきたことに今さら反省しても遅いが「デンマークの高齢者は羨ましい」と、身勝手な日本人女性がここにいる。(7期生 柴原悦子)
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