正月、田無神社に詣でた。今年の田無神社は例年にない混雑ぶりであった。というのも、神社のあちこちに5体もの龍神が鎮座していることから、今年最強のパワースポットとして、メディアに何度も登場したのだ。神社本殿には金龍、東に青龍、西に白龍、南に赤龍、北に黒龍が配置されている(ご利益のある廻り方は調べるべし)。五龍神は願いを隈なく聞き入れてくれるありがたい存在だ。私も五龍神が描かれた「一楽萬開(一つの楽が次の楽をよび、楽が集まって人生が開かれていく)」札を購入し、玄関に飾っている。

そもそも中国『漢書 律暦志』によると、「辰」の原字は、「ふるう・ととのう」を意味する「蜃」または「振」だそうだ。陽の気が動いて万物が振動し、草木が良く成長して形が整った状態を表すと解釈されている。

辰は架空の動物である。9種類の動物が合体し、十二支獣・龍として今日に至っている。アジア圏においては、龍は植物の成長に欠かせない水をつかさどる神として崇められてきた。一方、逆鱗に触れると嵐や雷を呼んで物を破壊し、あるいは一滴の雨も降らせず作物を全てダメにする荒ぶる神としての一面を持つ(左下写真)。

洋の東西を問わず、龍の伝説は多い。中国の龍は、霊獣として水中や地中に棲み、雨雲や嵐を呼び、竜巻となって天空に昇り、自在に飛翔するといわれている。口のあたりに長いひげを蓄え、顎下に宝珠を持っている。この宝珠を手にした者が皇帝となるという言い伝えがあり、5本指の龍は皇帝のシンボルとなっている。日本においては、作物の豊穣に欠かせない水を司る龍神は、金運や人生の繁栄を後押しするご利益があると信じられえてきた。

西洋の龍=ドラゴンはもともと天使であったが、堕天使となって地上に降り立ち、悪さをするようになったという。なるほどドラゴンに翼が付いているのも頷ける。中国や日本などアジア圏では水を司る神としての言い伝えが多いが、西洋では口から火を吐いて人に悪さをする巨大なトカゲや恐竜のイメージが強い(右上写真)。

全くの偶然なのだが、正月、イタリアワインにしては珍しく、ラベルにドラゴンのカラフルな絵が描かれている『ポッジョ・ドラコーネ・ロッソ』というワインを飲んだ。サンジョベーゼとメルローの2種類のブドウからつくられた、果実味豊かなワインであった。

そのワインにはこんな伝説が。イタリア・アブルッゾ州の丘に棲みつき、近隣の住民を恐怖に陥れていた危険なドラゴンを高名な司教である聖ルシウスが退治した。彼の功績を称え、ドラゴンの隠れ家跡に聖堂が建てられた。今でも2mにおよぶドラゴンの肋骨が遺されているという。

2月、私は「冬の特別拝観」が行われている京都を訪れた。目的は仁和寺の国宝金堂裏堂に描かれた五大明王壁画を見ることであったが、泉涌寺と雲龍院まで足を伸ばした。普段は静かな泉涌寺も、舎利殿の天井画に描かれた狩野山雪・筆の「雲龍図」を見るために多くの人が訪れていた。部屋の隅で手を叩くと「ぐわ~ん(よう来たなあ~)」と龍の声が響いた。

元日、大きな地震が能登半島を襲った。その後も大きな地震が日本各地で起きている。そういえば「」にも「」にも「辰(龍)」の字が潜んでいる。

誰かが龍の逆鱗に触れたのか?
地中に棲んでいた辰が暴れだしたのでなければよいのだが・・・。

60年に一度の甲辰年は、政治や経済に大きな変化が起きる年と言われている。世界に目を向ければ、温暖化による気候変動、長く続く戦争・紛争、記録的な円安など不安の種は尽きない。でも、大丈夫。私には「一楽萬開」が付いている。(7期 斎藤)

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