今年世界の総人口は国連の推計で80億人に達した。SDGsの目標達成期限の2030年には85億人となる見通しだ。
2015年の国連サミットで合意された持続可能な17の開発目標は、環境問題から社会問題まで世界全体で通り組まなくてはならない課題だが、気候変動による環境破壊が大きくなり、達成が一層難しくなってきているのではないだろうか。
中でも人口の爆発的増加と食糧問題は深刻だ。世界総人口の一割が飢えで苦しんでいる。気候変動による干ばつや集中豪雨、害虫の異常発生が開発目標2「飢餓をゼロに」の達成を阻んでいる。
さらに目を背けてならないのは、食料廃棄・食品ロス問題だ。現在全世界の穀物生産量は人口を賄うのに十分な量が生産されているにもかかわらず、食べられるはずの食糧が世界全体で年間13億t(10億人を養える量)も廃棄されているという事実。食料廃棄問題は焼却処理によるCO2増加に直結しており、温暖化の大きな要因ともなっている。私たちがまず取り組むべきは食品ロス問題だ。そのうえで、目標に記されている地球に負担の少ない持続的な生産の仕組みを再構築することだろう。
そんな中、パリに移住した俳優・杏さんがパリの食品ロス問題についてリポートしているのを見た。フランスでは生産された食品の3分の1が廃棄されていたが、2019年に食品廃棄禁止法が成立し、2025年までに食品廃棄物を50%削減する取り組みが始まっている。400㎡以上のスーパーには、売れ残った食品を寄付することが義務付けられた。
民間レベルでも取り組みは広がっている。モンパルナスの高層ビルの屋上では、農薬を使わない水耕栽培農業を展開し、近所のスーパーやレストランに納入している。地消地産という仕組みが運搬中の損傷による廃棄が減少し、運搬のコストカットやCO2の削減を実現している(右上写真)。
さらにスマホアプリを用いてスーパーやレストラン、パン屋を中心に売れ残ったものを3分の1の値段で提供する「Too Good To Go」サービスのような食品廃棄物アプリや余ったものを冷蔵庫に入れ必要な人が持っていく「連帯の冷蔵庫」のような〈地べた〉の活動が本格化している。フランス人のエコ精神は潜在的に高く、エコバッグの火付け役でもあった。「ささやかでも自分たちができることから始めよう」という気持ちに強く共感する。
さて、日本は?廃棄大国日本(1人当たりの廃棄量は中国と並び世界一)の食品廃棄量は年間2801万t。うち、624万tがいわゆる食品ロスで、これは世界の食糧援助量320万tの2倍に相当する。廃棄量の6割は意外にも家庭から出ている。わが家の食品ロスを点検してみると、冷凍庫で化石状態になっているものを発見し、愕然とする。
欧州のようにオーガニック野菜を食せば、家庭の食品廃棄量はずいぶん減るのだがという思いもある。私が住む地域には庭先で野菜を販売する農家が多くある。農薬はできるだけ使用せず、旬の野菜を作っている。新鮮で美味しいものを手に入れることは消費者には嬉しい。旬の野菜を安心して食すことは当たり前のことなのだが、その当たり前がどこかに吹き飛んでしまって久しい。曲がったキュウリも美味しい。冬に石油で育てたトマトやナスを食べなくたって旬の大根やホウレンソウを食べればいい。消費者の意識が変わらなければ農業は変わらないのだ。
『人新世の「資本論」』の著者斎藤幸平氏がいうように、SDGsは目下の危機から目を背けさせる現代版〈大衆のアヘン〉〈免罪符〉なのかもしれない。行動目標をなぞっても、気候変動は止められないだろう。それでも、大量生産・大量消費という呪いを断ち切り、責任ある消費者としてささやかでもできることはある。(7期 齊藤)
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