画家、阿部知暁(ちさと)さんの絵画展~Peace of Mind~を鑑賞してきました。
阿部さんは35年にわたり、アフリカ各地の野生ゴリラを描いてきた画家です。
ゴリラだけを描き続けている阿部さんに、深く興味を持っていた私は、新聞で絵画展を知り「あのゴリラの絵が観られる」もしかしたら「阿部さんにもお会い出来るかも」と期待を込めて開催の初日、絵画展へ足取りも軽やかに東京駅へ向かいました。
会場正面には、右斜めに構え睨みを利かせた雄ゴリラが、まるで楽園にいるかのような緑の背景の中に納まっていました。こちらをじろりと見る光った目と、大きな躰の毛並みのうねりから深い鼻息が伝わってくるようで、100号S(162×162)サイズの大きな油彩が一層迫力を感じさせていました。
絵画展のタイトルは、「Peace of Mind」
阿部さんの絵は、ゴリラの細かい表情までを観察し、心で対話している様子が絵に投射されているように感じます。猫背に丸まった大きなゴリラの後ろ姿に、ゴリラの気持ちを共有したくなるような絵や、頭にタオルをのせた何とも愛くるしい仕草の作品は、心をほんのりとさせてくれます。
モデルとなっているのは、現在飼育されているゴリラの最高齢、上野動物園のピーコでした。長靴をタオルで磨いたりもする雌ゴリラです。(阿部さん曰く、ピーコは職員さんのお手伝いをしている気になっている。)
沢山あるタオルの中からピーコは「可愛い柄や色だけを不思議に選ぶ」と、開門から閉門までひたすらゴリラだけを見続ける、阿部さんならではの鋭い観察力で教えて下さいました。ゴリラは平和的で争いをせず、ゆっくりと決めたら敏速に動く動物。すぐキレてしまいがちな現代人に、「ゴリラの絵を通してなにかを感じてほしい」と阿部さんは願います。
山極 寿一 京都大学総長は、今回の絵画展案内状に「阿部知暁さんとゴリラの時間」と下記のメッセージを送っている。
『ただ、見つめているだけではゴリラのことはわからない。ゴリラの目と心になって世界を眺めてみることが必要だ。阿部知暁さんは、これまでゴリラのいるところにはどこでも足を運んでゴリラの気持ちになってきた。阿部さんの絵はゴリラだけでなく、ゴリラが見る世界を描き出している』
『これまでゴリラは地上で草ばかり食べていると考えられてきた。でもそれは、高い山の上に生息するマウンテンゴリラのことで、世界の動物園にいるニシローランドゴリラは、低地のジャングルで毎日木に登り、フルーツを食べて暮らしていることが最近わかってきた。ぜひ、樹上生活をするゴリラの気持ちになって阿部さんの絵を見つめてほしい。そこから、これまでとは違うゴリラと、そして私たちの祖先の心が伝わってくるはずである』
絵を鑑賞しているうちに、アフリカの野生ゴリラに会って見たいという衝動にかられるほど、阿部さんのゴリラの絵には深いメッセージを感じます。
「早速、上野動物園へ行って思いを確かめたい!」ピーコに会いに行こう!
そんな気持ちになるのが阿部さんの作品です。
上野動物園のゴリラは、PM3:00になると野外から屋内への寝室に移るので見学時間が限られます。ピーコがいる第二放飼場は、高齢のため群れで生活出来ないため1頭でくらす場所になっていますが、8月から動物園へ度々訪れてもここの所お休み中の案内が貼られているので、高齢ピーコの健康状態が気になります。
「今日も会えなかったなぁ」と侘しい気持ちになりながら、第一放飼場のリーダーのハオコ(コモモ・モモカ・リキの父親)に会いにいきます。白い背中(シルバーバック)が特徴で子供達をあやす姿や、群れを見守る逞しく大きな背中は、生きる活力を感じさせます。
「今日もしっかりと群れを守っているね。」
「また会いに来るね。」と次回の再会の思いを秘めて帰宅します。
ゴリラ達を通しての新たな気づきや、心の豊かさを抱かせてくれた阿部さんの絵との出会いは、自身に何かを問い掛けられているように感じます。
~Peace of Mind~
(7期生 梅本)
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