昨年の秋、川端康成の『眠れる美女』(1961)を読んだ。きっかけは、あるレポートを書くために目を通した米国の文化人類学者E・T・ホールの『文化を超えて』(1976)であった。この著作でホールは、世界中の言語コミュニケーションの型を高文脈(高コンテクスト)文化と低文脈(低コンテクスト)文化に分類し、高文脈文化の言語例として日本語を、低文脈文化の言語例としてドイツ語を挙げている。
高文脈文化とは、言葉にされていない内容が相手に豊かに伝わる文化である。文脈(≒行間)を読んで、書かれていないことも以心伝心で伝わる社会ともいえる。『文化を超えて』のなかでホールは、高文脈文化の端的な事例として川端の『眠れる美女』を紹介していたのである。
文庫本『眠れる美女』の裏表紙には「熟れ過ぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の名作」となっており、解説を書いている三島由紀夫は「文句なしの傑作」と評価している。併載している『片腕』と共に意外な内容で一気に読了した。20世紀最高の作家のひとりガルシア=マルケスは、本作へのトリビュートとしてエッセイ『眠れる美女の飛行』(1982年)を書き、2004年には長編小説も発表した。私には、この作品が『雪国』『古都』『山の音』などと同等か、それ以上に川端の世界的評価獲得に貢献したように思う。(興味をもって戴いた皆さん、一度お読みください/川端61才の作品。文庫本130頁程)。
さて、以上が本稿の長すぎる「まえがき」である。実は、この夏、高校同窓会から2020年創立100周年記念の案内文・記念品チラシ(写真)・予約の振込用紙が郵送されてきた。母校は長田高校という。
案内文には「長田高校の制服を着たリカちゃん人形を発売することになりました。なんと夏服・冬服両方がついています!。ご自身の記念だけではなく、長田高校の受験を検討されている方へのプレゼントにもぜひ♪♪ 限定(先着順)2000体 本体6,900円」とあった。
「お堅いはずの県立高校の創立記念品がフィギア、それも制服を着たリカちゃん。時代は変わった」と少なからず驚いた。我々の時代は男子7割、女子3割であったし、その後も男子生徒が多いと聞いている。つまり、このチラシを受け取った多数派は、間違いなく中高年とシニアの男性である。
「う~ん、この企画を同窓会に持ち込んだ(株)タカラトミーのマーケティング力はある種鋭い。採用した同窓会役員も進んでいる」と思った。しかし、このような企画が一般的なら、驚いた私は時代遅れで、今を語ることを自重しなければない。そして、不覚にも『眠れる美女』を思い出してしまった。
「“ご自身の記念に”と言われても机に置いて愛でるのは如何なものか」「でも、気分が若返るかも…」「夏服って、衣替え?」「校長室のデスクにあると笑える!」「オークションに出したらプレミアム!?」
シニアにあらぬ妄想を逞しくさせる創立記念品であった。(7期 杉村)
【追記】地元では新聞記事にもなったらしく、それによると7月20日の予約開始から2週間余りで2000体を突破し、8月下旬に3000体を超えたそうだ。現在は「今も問い合わせが続いています。10月末までの申し込みは全数作って戴けることになりました。目前に迫った母校の100周年をともに祝いましょう!」と高校同窓会のネット掲示板に出でいる。
(他校の制服リカちゃんはここをclick下さい)
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