“三人市虎をなす”
私は若い頃からよく中国の古典を読んでいますが、“三人市虎(しこ)をなす”という印象深い故事があります。戦国時代の魏の恵王はあまり立派とは言えないが、なかなか逸話に富んだ面白い人物であったようです。これは『戦国策』の魏の巻きに出てくる逸話で、讒言(ざんげん:人を陥れるために事実を曲げたり、ありもしない悪事をこしらえたりして人に伝えること)が、いかに容易に信じられるかを物語ったものであり、またこの王の愚鈍ぶりを伝える話でもあります。
1人の家来が王に尋ねる「市場に虎が出ましたと言ったら、王様はそれを信じますか?」と。王は「誰が信じるものか!」と答える。「では二人の家来が同じことを言ったらどうされますか?」と尋ねると、王は「やっぱり信じないだろう!」と答える。また尋ねる「では三人の家来が同じように言えば、信じますか?」そこで王は答える「それは信じるぞ!」と。現在のアメリカや日本をはじめ世界のあちこちで流行っているフェイク(FAKE:偽造する、捏造する、だます等)は、この逸話に類似していると思いませんか。
1人の人が面白半分で、或は、意図的にフェイクをインターネットで発信したものが、瞬時にして世界中を飛び交い信じられてしまうという恐ろしい現象が私たちの身の周りで起こっており、言葉(情報)というものの怖さを実感しています。このことは、私の「暮らしに役立つ経済と金融」の講義において繰り返し語ってきた『現象を見て、実体を分析し、本質を知る』の意義が、いかに重要であるかを示していると言っても過言ではありません。
さまざまな現象に遭遇し「何かおかしい」「違和感がある」と感じた時は、その言葉(情報)が「本当なのか」を立ち止って自らに問うてみることが大切です。常識に照らし合わせ、或は、直観的に判断し、勇気を持ってそれに従って行動を起こすことが教養人であり、まさにRSSCの皆さんであると確信します。今はこの常識と直感が働く教養人が世界中で必要とされる時代だとも言えます。そのためには”学びの情熱尽きることなく!“を常に心がけ、その智慧を分かち合うことが礎となるのではないかと改めて思う次第です。
立教セカンドステージ大学教員
社会貢献活動サポートセンター顧問
坪野谷雅之
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