前回登場した兵庫県立長田高校は1995年1月17日早朝に発生した阪神淡路大震災で甚大な被害を受けた神戸市長田区にある学校である。同年 2月4日、私は空路岡山に入り、姫路を経由してまだ動き始めたばかりのJR山陽本線で神戸に向かった。明石を過ぎると民家の屋根にブルーシートが目立ち始め、須磨に近づくと震災の爪あとがさらに顕著になってきた。鷹取の駅前は火災で焼け落ちた家屋がそのまま残っており、まるで戦場を見るようだった。おそらく長田高校周辺も混沌とした状況だったはずだ。その後、復興のプロセスで街並みは大きく変わっていった。被災した跡地にはマンションの建設が始まり、周囲の建物も次第に整備されていったが、人の息づかいが感じられる商店街は姿を消した。一方、神戸市内の公園などの公有地には仮設住宅が長く残り、復興への道のりが平坦なものではなかったことを物語っていた。そんなことを思い出させてくれた長田高校の甲子園出場だった。
私はJR山陽本線、須磨⇔舞子間の車窓の眺めが気に入っている。社会人となり大阪に赴任した年のことだったろうか、初めて三宮から西に向かう列車に乗りこんだ時のことである。須磨あたりまで来ると目の前に穏やかな瀬戸内海が広がり、同時に山側には山陽電鉄の列車が近づいてきて、しばらくの間すぐ横を並んで走る。垂水の駅周辺で一旦海岸線から離れるが、またすぐに4本のレールが海沿いを併走し、舞子に近づくと海の向こうに淡路島が現れる。私は不意打ちを食らったように窓の外を見つめていた。この路線はその後も何回か乗車しているが、今では明石海峡大橋がそびえ立ち、また一段とインパクトのある景観となり、その狭い海峡を大小の船がゆったりと行き来する。この海の鯛やタコは知名度が高いが、春の風物詩のいかなごなど庶民の味にも事欠かない。かつて平氏はこの海を西に逃れて壇ノ浦で滅び、九州で再起をはかった足利尊氏は東へと進み、湊川で新田義貞、楠木正成の軍を破り京に上ったのだ。
列車から眺める風景は時間に追われる出張先であっても、そんな物思いにふけるひと時を与えてくれる。子供の頃から鉄道好きだった。車両の形式や蒸気機関車の仕組みなどにはあまり興味はなく、列車のスピードを感じながら、流れる景色を見つめていると飽きることを知らなかった。特に初めて乗る路線にめぐり合うと胸がときめき、あらかじめ地図を見ながら駅名をチェックするなど準備に怠りはなかった。鉄道ファンの分類からすると“乗り鉄”ということになるのであろう。そういえば、久しく列車の旅に出かけていない。各地の紅葉情報がメディアから流れてくる。富士山頂も雪をかぶった。紅葉は一気に山を駆け下りる。里の降りてきた紅葉でも見に出かけたいが、今月は諸事情あって動きが取れない。
しかし、これはさして残念がることではない。私の本質は“乗り鉄”なのである。紅葉も桜も新緑も所詮“おまけ”のようなもの。私が列車の旅に心ひかれるのは、まだ乗ったことのない路線に一歩踏み入れるときの“ドキドキ”“ワクワク”感なのである。どうやらまた一つ楽しみが増えたようだ。本を一冊ポケットに入れ、このところ使用頻度の減った一眼レフでも担いで出かけよう。そうすればいっぱしのマニア気取りになれる。まずは手始めに最寄りの本屋へ時刻表でも買いに行こう。立冬を過ぎて風も冷たくなってきたが、私の心は春模様……。(7期:石巻)
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(14回からのワンクールは、前回投稿の主要な単語・文章・文意を組み
☆込んだ連歌的な投稿にチャレンジして行きます)
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