例年より早い梅雨入り、夏の気配が待ち遠しいこの頃です。「金魚」とアートの世界、「アートアクアリウム美術館GINZA」が銀座三越にオープンしたと聞いてでかけてみました。
アートアクアリウムとは、独自にデザインしたアクアリウム(水生生物を美的に飼育・観賞するための設備のこと)に美しく舞う金魚を泳がせ、光・音・香のオリジナル演出で魅せる金魚アートの展覧会、とあります。
2007年から期間限定の企画展を重ね、東京をはじめ京都、金沢、そして全国に展開されてきたとのことで、見に行かれた方も多いのではないでしょうか。私も数年前、日本橋のコレド室町を訪れた際には大変な賑わいで会場もごった返し、人も金魚もひしめいている印象で、関心もそれきりになっていました。
でも、今回のアートアクアリウムのテーマは「百花繚乱~進化するアート」とあります。「進化するアート」という言葉が今の自分の気持ちにヒットして足は銀座に向いていました。平日昼間の銀座は人も少なく、未だ空気も澄んでいる気配。梅雨の晴れ間に初夏の日差しが街並みを際立たせています。
会場入り口は照明を落とした中に万燈籠が浮かび上がり、金魚の回廊と名付けられた水槽が並んでいました。ここからタイムスリップした江戸の町が表現されています。光の色が赤から青へ変化するグラデーションも鮮やかな水中で、金魚がのびのびと泳いでいる様子は、アートアクアリウムが安心して愉しめる空間へと進化していることを示していました。
会場は6つのエリアごとにタイトルが付けられアートの世界観が表現されていました。
静寂閑雅(幻想世界への入り口)飛耳長目(人の世で生れた、自然には存在しなかった金魚。その姿を蒐集する文化)落花流水(水の音で涼をとる滝)百華繚乱(色とりどり金魚と日本伝統文化の折り紙)竹林七賢(連なる提灯と竹林)花鳥風月(アーティストの表現)の各エリアが唯一無二のアートの世界として広がりを見せている、と謳っています。
この中の一つ「花鳥風月」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。『金魚と日本人』の著者鈴木克美氏によれば、「江戸時代の日本人は、荒々しい自然の中から美しいものだけを選りだし磨き上げ安心して鑑賞できるものに仕立てる手法を知っていた。」として「日本人のいう美しい自然は、人間社会の近くにあって人の心を慰め、疲れを癒やしてくれるものであった。手の中の自然、花鳥風月とは、そういうものであったのではないか」と書いています。
さらに「江戸の町方で求められた自然は、狭苦しい9尺2間の裏店住まいに似合う、ミニサイズ」として「金魚はやっぱり花鳥風月の一部だったのではないか」と続けています。手の中の自然、としての金魚が江戸で流行したのもこうした日本人の自然観が生み出したものであれば腑に落ちる気がして、気持ちがスキッとしました。
金魚売りの声 昔は涼しかりし( 政宗白鳥)
江戸の時代から親しまれてきた金魚、現代は銀座で涼をとるのも一案かも知れません。
(7期:吉岡)
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