声かけ運動

公共交通機関と自分の足での移動が当たり前になってくると、街中にある点字ブロック(視覚障がい者誘導ブロック)がとても気になってきた。さらに、盲導犬をつれた方がホームから転落されるという悲しい報道や駅での声かけ・サポート運動の推進もあり、駅や街中での安全について考えるようになった。

そのような時、さいたま新都心で小学生達にバリアフリー学習やまちの案内をするボランティア活動に積極的に取り組まれている方から、「視覚障がい者擬似体験をしてみませんか?」と誘われた。駅や街中の安全について関心が高まっていたので、私も体験をすることにした。アイマスクをつけて目が見えない状態を体験するプログラムには色々あるが、今回はアイマスクをした体験者が、前にいる人の肩に手を乗せ一列になって歩く方法であった。もちろん先頭の方はアイマスクもつけてはいないし、ガイドヘルプ役としての経験もあり、体験を見守るサポート役の人もいて心配することはないはずなのに、体験者5人の顔に不安の気持ちが表れてしまったようであった。

さいたま新都心

ガイドヘルプ役の「不安な気持ちはわかりますが、声は出さないでください。出発しますよ!」の合図で、さいたま新都心けやき広場の1階部分を縦一列になった体験者は歩き始めることになった。どこを歩くかわからない私たち5人は、自分の持っている感覚を研ぎ澄まして、自分の手が前の人の肩から離れないようにして歩いた。耳、鼻、肌に感じ取ることができる風や、足裏から感じる感触を頼りに、そして前の人の肩に手を乗せながらの歩きはとても長い時間に感じた。まっすぐ歩くだけではなく、蛇行をしながらでは手が肩から離れそうになり正直怖さも覚えるようになっていた時、やっと立ち止まることになった。

「次は、一人一人が白杖を頼りに点字ブロックの上を歩きます」の指示があった。「えっ、どこを歩いているかわからなくなっているのに一人で歩くの?」と思ったが、歩かなければ終了しないので、白杖から伝わる感触を頼りに点字ブロックの上を歩くことにした。サポート役の方の見守りがあってではあるが、手すりのあるところまでそれぞれが到着するまでには、時間を要した。

「全員の方の体験が終わりましたので、アイマスクを外してください」の声で外すと「えっ、ここ?!」の大きな声があがった。それは、長く感じていたこともあり、かなり遠くまで歩いて行ったはずだと思っていたのに、半径50メートルの範囲で移動していただけの驚きであった。今まで声を出すことを禁止されていた反動からか「えっ、2階に行っていなかったの?」「風と車の音で外に出たように感じた」「前の人の肩だけが頼りだった」「白杖でまっすぐ歩くのは難しかった」「人の声がいつもより大きく聞こえた」などそれぞれの感想があった。

今回の視覚障がい者擬似体験は、視覚障がい者の人たちが生活や外出する際にどのように大変な思いをして行動しているかを少しでも知ることができればという目的であった。何が不便で不安なのか、何が怖いか、どうすれば安全に目的地まで行くことができるか等までは、限られた時間の体験から学ぶことは難しい。体験することは知識だけではなく身体から理解をすることはできるが、一歩先に進めただけであることを決して忘れてはいけないと強く感じた。

「視覚障がい者擬似体験をしてみませんか?」の言葉に誘われた私は、肩の温もりやしだれ桜の美しさに背中を押されてではあるが、さいたま新都心で地域の小学生にまちの案内やバリアフリー学習のボランティア活動の手伝いをすることになった。そして、誰でもが、駅や街が安全に歩けるような環境になって欲しいと願いながら、私は春から歩き始める。 (7期生 金子)

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