BSやCSの番組を録画して、暇な時に楽しんでいる。『ジャイアンツ』はけっこう長いし退屈かもと、少し迷った。でも、役者がいいかと思って、ONに。
もし、この映画をまだ観たことがなくてこれから観ようと思っている方がいらしたら、この先はご覧になった後で読むことをおすすめします。良くてびっくりするって、人生の最高の楽しみの一つだと思うから、私と同じようにそれを味わえることを願って。
彼女は今どき見かけないくらいの完璧な美女、それが玉の輿に乗る話でさえなくて初めからお金持ちの東部のお嬢様の役、そして西部の大農場主と恋に落ち……って出だしではばかばかしくなって、一瞬観るのをやめようかと思ったのだけれど。それが、出会った翌日、いきなり相手の男に嫌味を放った、
「朝の5時まで本を読んで調べたわ、テキサスはメキシコから奪った土地なのね」。
私はハッとして、その言葉を書き留めた。エリザベス・テイラー演ずるレズリーに瞠目した瞬間だった。
彼女は結婚しても言う時は言う。日頃は美しく聡明で働き者で申し分のない妻なのに。「偉そうな言い方をするなら運動家になれ」「私は初めから不愉快な女よ」。
夫の来客との会話に思わず口をはさみ「女は黙っていろ」と言われると、「政治、ビジネスが男だけの話とは思わないけれど」。後から夫に「謝る。失礼だったわ」と詫びるのだが、「でも、私はまちがっていない」とも言い添える。そういうことを彼女は、静かに話す。
また、広大な土地のはずれに住む使用人の病気や貧しさを心配して、「十年来の地主ならなんとかしなさいよ」と意見する。夫は「赤十字じゃない」と返す。
圧巻は、三十年の結婚生活を回想して「あなたを素敵だと思ったのは……」と言う台詞。 「(安食堂の)店主にぶちのめされて(食べ残しの)皿の山に倒れたあなたこそ私のヒーローよ、百年後にベネディクト(夫の姓)はあれで成功したと言われるでしょう」。
ロック・ハドソン演じる夫は口を開けて妻を見つめ、「たとえ九十まで生きても、きみのことはわからないだろうな」とつぶやくのだ。
夫が店主に殴り掛かったのは、息子の妻がメキシコ人だったので店から出ていけと言われたからだ。彼女はいつもフェアでフラットな感覚で人と接するから、息子もそのような人間に育っていた。夫は差別を怒ったのではなく、ベネディクト様に向かって何だ?と怒ったのだったが。映画の最後、その夫は「贅沢はやめて質素に暮らそう」と言うに至る。
後の方ではあっさりと老け顔に変わってみせた。ジェームス・ディーンとは全く距離を縮めなかった。自分の欲のためには、決して規範を崩さなかった。だが、あるべき形に変えるためには、勇敢に慣習を踏み越えた。持てる人だが、持たない時も平然としていた。この映画のエリザベス・テイラーの中に人間の最も善良なものを見る。
ぬかるみに残された彼女の足跡。焦がれたジェームス・ディーンが手に入れたもの、手に入れられなかったもの。これが遺作となった彼の、泥酔してひっくり返った姿は、きれいだった。きっと魂の色が見えていたのだろう。エリザベス・テイラーもそう。本気で、ズレていたのだ。1956年の映画だが、ちっとも古臭いとは思わなかった。その後の映画が進歩したのか問いたいほどだ。 (7期 安孫子)
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