「たまには違うことしてみようか?」
RSSCを修了した昨年7月のある日、近くのMOVIX柏の葉という映画館に『歌舞伎NEXT 阿弖流為<アテルイ>』という舞台を撮影した映画を観に行きました。PTAやコーラス等で子育て時代をともに過ごした地元の友だちふたりといっしょです。時々三人でカラオケに行っておしゃべりと歌に花を咲かすのを楽しみにしていましたが、友だちのひとりが「面白そうなのがあるよ」と教えてくれたのです。

恥ずかしながら、私はこの歳になるまで「歌舞伎」に行ったことがありませんでした。それどころか、テレビでさえまともに観たことがなくて、日本人としてちょっとまずいと思っていたので、まあこれは、正確には「映画に行く」のであって「歌舞伎に行く」わけではないのですが、「劇団☆新感線」プロデュースのあまり硬くなさそうな「歌舞伎」のようだし2100円なら安いと思うし、高かった敷居が低く感じられたので出かけてみました。

そして、ハマりました! 休憩をはさんで185分、教科書に小さく載っていた「蝦夷の抵抗 アテルイ」の話が目の前で生き生きと華やかに繰り広げられ、大いに笑って泣きました。平安時代の初め、桓武天皇の下に国家統一を目論む大和朝廷が、抵抗する北の民 蝦夷を攻め込んだ。それぞれの長、坂上田村麻呂と阿弖流為は激戦の中でお互いの義を認め合うようになるが、朝廷側の陰謀の渦の中に呑み込まれていく――、そんなお話です。

似たような争いはいつでもどこでも繰り返されていると思いました。歴史は勝者によって語られることが多いですが、勇ましく立派だった敗者を讃える話も片隅に残っていきます。そういう者が甦って舞台狭しと暴れまわるのを眺めるのは小気味よかったです。また、「自由と誇りを守るために戦うことが正義なのか、屈辱に耐え降伏を受け入れることで民を救うのが道理なのか」という問いは現代に通じる普遍的なものだと考えさせられました。

『阿弖流為<アテルイ>』は、2016年6月から2017年3月にかけて松竹が「月イチ歌舞伎」と謳って毎月一定期間、全国33ほどの映画館で歌舞伎を上映していった1作目でした。これがとてもよかったので、『野田版 研辰の討たれ』、『怪談 牡丹灯籠』、『蜘蛛の拍子舞 / 身替座禅』、『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』、『三人吉三』、『阿古屋』と続けて三人で通いました。お正月の『文七元結』だけ残念ながら行けませんでした。

勘三郎と三津五郎の多才な姿を知って、その早すぎる旅立ちを心から悼む気持ちになりました。今まで知らなかった、でも、今からでも知ってよかったです。玉三郎、仁左衛門、まだ間に合いますね。同時代に出会えたよいものに気づき、できる範囲で愛でながら暮らしていきたいものだと思いました。

そんなわけで、このたび遅ればせながらも「歌舞伎」に触れてみて、私が一番心に残ったのは、人物が喜怒哀楽の極みで動きをピタリと止めることでした。見得を切る。悲しいに決まってるだろう、これが怒らずにいられるか、この艶姿をごらんと一幅の絵になってどうだとキメて、そして次の瞬間に、消えてしまう。その落差に鳥肌が立ちました。

また、人は好きな話を何度も聞きたいのだとも思いました。子どもの頃寝る前に母にお話をねだったこと、平家の亡者が耳なし芳一に壇ノ浦の話をせがんだことまで思い出しました。そして、いいところにさしかかって涙が出る心地良さ、Yesterday Once Moreの詞と同じです。

この「月イチ歌舞伎」では、2/11~2/17に『女殺油地獄』、3/4~3/10に『二人藤娘 / 日本振袖始』がこれから上演されます。今後の予定は分かりませんが、他の演目もまた観られるといいですね。(7期生:安孫子)

※月イチ歌舞伎
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