関係の作り直しの場

 

 セカンドステージ大学の皆さんとの関わりの中で、とても印象づけられるのは、たとえば、清里での合宿やゼミの懇親会、さらには同好会などでの語らいの雰囲気です。その大変に楽しそうにされている様子を見ながらも、私は社会学者だからでしょうか、集まっている人々を、ついつい観察してしまいます。そこでいつも思うのは、この年代の方々がこんなに楽しくうちとけ合うというシーンは、いまの日本ではとても稀ではないかということです。職場の集まりとも、地域の集まりとも、また小学校や中学校の同窓会とも違う雰囲気。セカンドステージの皆さんは、今、この時間を共にいることを、本当に楽しんでいるようです。

 ダンバー数というのをご存じでしょうか。人類が作ることのできる集団の規模は150人だという、進化心理学者のロビン・ダンバーという人が唱えている説です。「たった150人?」と思うかも知れません。しかし、霊長類の様々な種は、それぞれにほぼ決まったサイズの集団を形成しているけれど、そのサイズは脳(新皮質)の大きさに比例しているというのです。そこから推定されるのが150人。狩猟採取を行ってきた人類の圧倒的な期間の集団規模もやはり、ほぼ150人だというのです。ヒトにも霊長類にも他者との関係を複雑にコントロールする「社会脳」というものが本来備わっていて、逆にいえば、そのキャパシティをこえる関係にはそもそも無理があるというのです。

 人類の進歩については、人工知能が人間の能力を超える日が近いなどといわれるこの頃ですが、人間の脳に由来するこんな「限界」が存在しているという発見もなかなか示唆に富んでいると思いませんか。孤独化や社会的孤立が忍び寄っているいまの時代、生き生きした関係をつくる社会脳は、自分だけでなく社会全体にとって、大事な要素だといえますね。

 セカンドステージの方々には、退職や家族の節目をきっかけに「学び直し」を思い立ち、そこでの関係づくりをしようと積極的に行動を起こされた方が多くいます。関係は人数が多ければ良いというのではないとすれば、関係の作り直しは、その人の人生にとっても、社会にとっても重要ですね。なにせ150人ですから。そう考えると、このセカンドステージ大学の同窓会は、とても貴重な場だといえるのではないでしょうか。

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立教大学セカンドステージ大学兼任講師
(第8期本科ゼミ、第9期専科ゼミ、
「テレビ経験の社会史」講義、担当)
立教大学名誉教授
成田康昭(社会学、メディア論)